用語解説 な〜ほ

あ〜こ さ〜と な〜ほ ま〜わ



内観法(naikan therapy)

 もともとは浄土真宗の一派に伝わる「身調べ」という修行法をもとに、一般の人
にもできるセラピーの方法として確立されたもので、森田療法とともに日本独自
の心理療法です。
 父、母、配偶者など身近な人について、「してもらったこと」、「してあげたこ
と」、「迷惑をかけたこと」の3つの課題を具体的に思い出すという非常に単純
な方法です。そして1週間、徹底してこの課題のみに取り組みます。(集中内観)
 この取り組みの過程で、内観への抵抗といえる種々な現象が現れますが、それを
乗り越えると、他者の愛情がしみじみと感じられ、感謝の念や清々しさが自然に
わきあがってきます。
 神経症、心身症、薬物依存などに効果があるとされています。(37号)



認知療法(cognitive therapy)

 誤って学習した考え方・イメージ・記憶など、ゆがんだ認知が習慣化すると、
自己を否定的にとらえ、環境を非現実的に受けとめるようになると考え、認知的
歪みを変えることによって、行動を是正しようとする療法。うつ病、摂食障害、
不安障害などに有効だと評価されています。ソーシャル・スキル・トレーニング、
エリスの論理療法、マイケンバウムの自己教示トレーニングなどの療法があります。
 歪んだ思考には次のようなものがあげられます。(バーンズによる)
1.全か無か思考:ものごとを白か黒かのどちらかで考える思考法。少しでもミス
 があれば失敗と考えてしまう。
2.一般化のしすぎ:たった一つの良くないできごとがあると、世の中すべてそう
 だと考えてしまう。
3.マイナス化思考:良いできごとを無視して、マイナス面ばかり見てしまう。
4.結論の飛躍:根拠もないのに、悲観的な結論を出してしまう。
5.拡大解釈と過小評価:自分の失敗を過大に考え、長所を過小評価する。逆に他
 人の成功を過大に評価し、他人の欠点を見逃す。
6.感情的な決めつけ:憂うつな感情は現実をリアルに反映していると考え、感じ
 ているからそれは本当のことだと思ってしまう。
7.すべき思考:何かやろうとするときに「〜すべき」「〜すべきでない」と考え
 る。そうしないと罰を受けるように感じ、罪の意識を持ちやすい。 (27号)



箱庭(sandplay therapy)

 箱庭療法は、1929年にローエンフェルトによって生まれ、カルフによって、ユン
グの分析心理学を基盤として治療に用いられるようになった、遊戯療法の一技法
です。
 ミニチュアの遊具と砂に、箱の枠組みの中で作品を作っていきます。作品は作る
人の内的なイメージの表現であり、無意識的なものの投影であると考えられ、そ
のイメージが意識化することで治療効果があると考えられています。自己イメー
ジを表現し、それをフィードバックさせることによって内的統合がはかられる療
法です。
 普通、心理療法は言語的コミュニケーションで、今感じていることを、論理的に
正確に伝える意識的コミュニケーションといえます。しかし、意識できないか気
づいていない問題でも、イメージで感じる世界があり、それは言語で表現できな
いものがあります。
 箱庭は、自分にぴったりする表現を容易にし、イメージの世界を伝えることがで
きる非言語的コミュニケーションといえます。子供から大人まで適用範囲が広く、
遊びを楽しめるので、ある意味で楽しい心理療法といえるでしょう。(36号加藤)



パニック障害(Panic Disorder)  

 動悸、発汗、過呼吸、呼吸困難、めまい、胸痛などの急性で強い不安発作(パ
ニック発作)を伴う不安神経症。「また発作が起こるのではないか、このまま死
んでしまうのではないか、気が変になってしまうのではないか」という予期不安
もあります。パニック発作は、何の前触れもなくいきなり始まることが多く、慢
性の不安神経症へ進んでいきます。パニック発作は不安神経症の代表的な症状な
ので、「不安神経症」という病名に代えて、最近は「パニック障害」と呼ばれる
ことが多くなりました。

 パニック発作は普通、数分ほどでピークに達し、急速に治まります。しかし、
過呼吸症候群(過換気症候群)と呼ばれるパニック発作の場合、過呼吸による血
液中の酸素濃度の急激な上昇が中枢神経系を刺激して、いっそう不安をかき立て
るため、発作がすっかり治まるまでに1時間以上かかることがあります。一度パニ
ック発作が起きると、「発作がおきたらどうしよう」という発作の再発を恐れる
ようになり、人の大勢集まる場所や慣れない場所に一人で出かけるのが恐くなる
ことがあります。これが広場(人が大勢集まる広場)恐怖、あるいは外出恐怖で
す。

 パニック障害を起こすメカニズムはまだ解明されていませんが、生活のストレ
スが脳幹部の中枢神経系に影響を与えているのではないかと言われています。
治療は、認知療法、行動療法、あるいは森田療法などの心理療法が有効とされて
いますが、不安を鎮める効果のある薬物を投与する薬物療法も併用されます。
(62号)



PTSD(心的外傷後ストレス障害:Post-traumatic stress disorder)

 瀕死の重傷を負うようなできごとや身体の安全に関わる非常に危険な状態を体験
あるいは目撃・直面した後、不安・不眠・悪夢・無力感・恐怖感など強い心理的
苦痛に悩まされる状態。
 阪神大震災や昨年のアメリカ同時多発テロを体験した人の中にはいまだにこの障
害で悩んでいる人がいます。また、幼児虐待を受けたり、子供の頃のトラウマが
原因で大人になってからも神経症や恐怖症、依存症に悩まされ続けている人もい
ます。(アダルト・チルドレン)



ビリーフ(belief)

 論理療法の中心概念で、あるできごとをどのように受け取るかという基本的な
考え方、信念。人はこのビリーフに従って無意識的にできごとを評価しているた
め、同じできごとでも異なるビリーフを持つ人には異なる意味を持ち、これによ
って生まれてくる感情も異なります。

 論理療法では、「〜すべきだ」などという不合理で非建設的なビリーフである
イラショナル・ビリーフを「〜するに越したことはない」などという合理的で建
設的なラショナル・ビリーフに置き換えることが主眼となります。(67号)



フォーカシング(focusing)

 フォーカシングは、心理療法での成功例と失敗例の研究から開発されたもので、
心理療法がうまくゆくクライエントは、言葉で言い表せない身体的な気づきを
感じることができるという発見を応用し、自分のからだを使って、だれでも自分
の内面の変化を感じることができるようにした技法です。
 具体的には、からだの内側、のど、胸、胃、下腹などに注意をむけることから
始め、時々刻々と変化する内面の感情や感覚に焦点を合わせます。つまりフォー
カシングです。これらの感覚をあるがままにしながら、感情と関わりをもち、
自分自身の声を聞くなどのワークをおこないます。
 ロジャースのいう「受容」「共感」「自己一致」をからだで感じることができ
るようになるので、カウンセラーを目指す人はぜひ勉強しておかれるとよいと
思います。
 フォーカシングは心理療法としてだけでなく、生活の中でも広く役立つ技法
です。練習すればだれでも使えるようになり、一生いつでも必要な時には使える
のがすばらしいところです。具体的には、次のような場面で有効です。
(以下、アン・ワイザー・コーネル著「やさしいフォーカシング」より抜粋)
1.自分がどう感じているか、何が欲しいのかもっとわかりたいとき。
2.押さえきれない感情をどう扱ったらいいか知りたいとき。
3.「できない病」とか「やめられない病」から解放されたいとき。
4.自己批判から解放され、自己愛や自己受容を高めたいとき。
5.はっきりと納得のいく決断をしたいとき。 (15号)



プラシーボ効果(placebo effect)

 まったく薬理効果のないでんぷんのような偽薬(プラシーボ)をよく効く薬だ
と言って患者に与えると、実際に症状が改善されるという現象。3割ほどの人に起
こると言われ、副作用を起こす人もいます。暗示効果や条件付けによって自然治
癒力が発揮されるために起こると考えられます。人によっては、薬効以上に薬が
効いたり、効くはずの薬が効かなかったりということも起きるわけです。健康食
品や民間療法では、実際の効果よりプラシーボ効果の方が大きいかもしれません。
 心理学の関係ではハロー効果(光背効果、後光効果)というのがありますが、
似たようなことは様々な分野で広く起こる現象だと思われます。たとえば、自分
では気功の能力がないと思っている私が気功治療をしたとしても、それらしく振
る舞えば何人かの人には効果を出すことができるでしょう。



プレイバック・シアター(play back theater)

 プレイバック・シアターは、サイコドラマ(メルマガ35号用語解説に記載)から
発展したセラピーとして、ジョナサン・フォックスによって作られた即興劇です。
 実際には、即興劇にいたるまでの一体感を作るエクササイズ、自発的表現のた
めのウォーミングアップ、即興劇後のクロージングを含め、プレイバック・シア
ターと呼んでいます。
 語る(テイラー)、内容をまとめる(コンダクター)、演じる(アクター)、観る
(観客)という役割があります。
 一人一人が安心して自分を表現できる自由な空間のなかで、自分の内なるもの
を伝え、人が語ることに耳を傾け、自分の中に湧き起こってくるものを表現し、
分かち合い支えあう事で、問題解決、自己発見、癒しなどの効果が得られます。
 「コミュニティーのなかで、人と人のつながりを育む場」作りとして、現在、
セラピー、教育、産業、芸術、レクリエーションなど幅広く活用されています。
(44号加藤)